かわり種の森の女の子。
お茶に誘われて、「そこそこ町」のお屋敷アパート へやってきました。

美しいものが大好きなマダム(主にやさしいほう)が作るケーキやクッキーは、見目麗しくその上味も最高で。
花やアクセサリーでさらにテーブルは彩られ
ポットから注がれた紅茶の色まで完璧なマダムのおもてなし。女の子はもううっとり夢のなか。

こんなに美しい時間を過ごしてしまったら・・・普段の暮らしになんて戻れない、ああ戻れないわ・・・


どうにも雑なイメージのある女の子ですけどね、
美しいものやお菓子作りがそりゃあ好きな乙女なんですよ。

お菓子もね、なかなかかわいらしく綺麗に作ってましたしね。
(・・・でも不味かったんだけどね・・・すごく不味かったんだけどね、ご存知の通り・・・)


そうそう。女の子が四苦八苦して作った「かわり種の森のジャム」は、
可愛くて美味しいと人気急上昇でね、売り上げもなかなかいいんです(良かったねえ)。

喫茶ウカウカでもスコーンセットとして人気メニューになりまして。
最初は「すてきな町」からスコーンをとりよせていたのでしたが、
品切れが相次いだこともあり、「お客様に迷惑かけてはいけないっぺ」と、
店主のウカウカさんは、自社製品開発に乗り出しました。
・・・・といってもそれは、女の子に作らせることにしたというだけですが。

ウカウカさんの猛特訓を受け、女の子は、スコーンだけは美味しく作れるようになったんですよ。
しかし見た目がどうにも無骨な仕上がりになるという残念さはついてきましたが。

喫茶ウカウカでは彼のセンスでうまい具合に盛り付けられるので気になりません。
しかし。マダムの美しいケーキの横に置かれると・・・・うーんこりゃあどうにもあれだよなあ・・・と女の子は気がかりで。

「あのお・・・・こんなに綺麗で美味しいケーキやクッキーがあるので・・・
私のスコーンは・・・そのお・・・いいです・・・よ 
食べなくても・・・

消えそうな声で言いましたのよ。
するとですね、マダムたちは


「あら、お嬢ちゃんのスコーンはいいお味よ。ジャムとの相性が抜群で。
それにね、お嬢ちゃんらしい楽しさがあってね。私、これをいただくと元気がでるのよ。」

「そりゃあこの人のお菓子と比べたら大違いに決まってるさ。
この人がこれだけのものを作れるのには、ちゃんと理由があるからね。
 それでもさ、私はお前さんのお菓子を食べるとほっとするよ。
種類が違うけれどもね、これもやっぱり美味しいお菓子さ。」

ふたりともがそんな風に言ってくれたので
女の子はちょっと(かなり)ほっとして、ちょっと誇らしくて、美味しいお茶をおかわりしたのでした。


部屋に差し込む薔薇色のひかり。
そろそろウカウカさんはお店を閉める準備にとりかかる頃かな。

帰ったら、またスコーン作りを教えてもらおう。
もっとたくさん練習をしよう。

もっと美味しく作れるようになって
もっともっと喜んでもらえると、いいな。




◆9月のお話◆
小さい画をクリックすると大きい画がかわります