彼女は恋をしていた。

恋をするのははじめてというわけではなかった。
でもそれはいつもワクワク楽しいものだったのに

この苦しさはなんだろう。
この痛みはなんなのだろう。


一年に一度、
バレンタインディには、そこそこ町でもチョコレートがとびかいました。
そこそこ町のひとたちは
けっこうお祭り好きなので
商店街はバレンタインデーフェアを華やかに開催!
パン屋さんもここぞとばかりに腕をふるったしね。
(商魂たくましいパン屋の奥さんがはりきったのは言うまでもなく)

そしてまあまあ高級店の仮店舗までも
このようななへんぴな町にさえも毎年オープンしていまして
町中のレディたちで賑わっておりました。


「彼女」はまだ「女の子」と呼ばれていたころからずっと長いこと
毎年そりゃあたくさんのチョコレート菓子を作っては、みんなに無理やりふるまってきたのだけれど
そのチョコレート菓子は時にはウカウカさんやピエールさんに
ひどい腹痛を与えるシロモノだったりしましたが・・・まあ楽しい思い出ばかり。

町のおしゃれなカフェのマスターやいつもにこにこ配達のお兄ちゃんに
みんなできゃーきゃー贈ったこともいくたびも。


楽しいはずの、喜ばれるはずの、
この日のために作ったチョコレートを
彼女は初めて自分で食べた。

チョコレートは美味しかった。
しかし棘がささったようだった。
彼女の心はひりひりと ひりひりと痛かった。

この苦しさはなんだろう。
この痛みはなんなのだろう。
あの人を思いうかべるだけで
どうして涙がとまらないのだろう。


恋は赤い。赤い薔薇。


◆2月のお話◆
小さい画をクリックすると大きい画がかわります