つまらないなあ。まったくつまらないよ。


フツーノはひとりためいきをついた。雨の森で。


せっかく長靴をはいてきたのに。
スカーフだってまいたのに。
ぼくは普通の猫じゃないんだって
知ってもらおうと思ったのに。

「喫茶ウカウカで珈琲を飲んだ猫」の噂がそのうちに
マダムにも知られると思ったのに。


フツーノは知らなかったのね、喫茶ウカウカは雨の日にはお休みだと。
・・・だってマダムはそんなこと話していなかったから。


マダムっていうのはそこそこ町の姉妹のことね。(このひとたち)
フツーノは、マダムたちの家の庭で生まれて、
おとーさんおかーさん猫がどこかへ行っちゃったので
その後この家の猫になったんだ。

マダム(やさしいほう)はもう夢中で
いろんな名前を考えてくれたんだよね。

「フランシス」「ベルナール」「コラン」「アルチュール」「マルチェロ」
「うーんどうしましょう・・・どう思う?」

マダム(こわいほう)はざっくりと
「こんな普通の猫にごたいそうな名前をつけてどうするんだい。猫もお前さんも笑われるだけだよ。
普通の猫なんだからね、ふつーのね。」

「あら、それ可愛いわ。じゃあフツーノにしましょう」

・・・と、かみ合ってるんだかかみ合ってないんだか分からない会話から
彼の名前は決まったんだって。

その後、マダム(主にやさしいほう)の部屋で寝てたりすると
ときどき「かわり種の森」の話が聞こえてきたんだよね。
なかでも「カモウサギのウカウカさん」の喫茶店の話が
フツーノのお気に入りで
寝てても耳をピンとたてて
聞き逃さないようにしてたんだ。

ある日その話の途中でマダム(やさしいほう)が
「フツーノちゃんも喫茶ウカウカへつれていこうかしら」と言ったので
フツーノはドキドキして耳を思いっきりすましたら
マダム(こわいほう)がまたざっくりと
「フツーの猫はだめだよ。あそこにゃ似合わない。」
なんて言うんだよね。

(むむ・・・でもやさしいマダムは連れて行ってくれるさ)

と思ったフツーノだったんだけど、
マダム(やさしいほう)までもが
「・・・そうね。ひとがつれていくのはおかしいわね。」


なんてい言いだしちゃったんだ!
フツーノはさ、頭にきちゃってさ、いやんなっちゃったんだよね。

いいよいいよ、じゃあ、今度の雨の日に(マダムたちは雨の日はでかけないから)
ぼくだけで行くからね。あたりまえの顔して行っちゃうからね。
後で噂を聞いてびっくりすればいいよ!


・・・・・というわけでの、今日だったのね。


フツーノはずいぶん長いことぼんやり待ってたんだけど、
何を待っているのかわからなくなっちゃってね。

どうしようかなあ。おなかすいたなあ。帰ろうかなあ。
なんだか怖くなっちゃったなあ。

心細くなってちょっとだけ鳴いてみたら、家とは違ってへんな声に聞こえてね
余計に怖くなっちゃった。

その時、見覚えのある百合の模様の傘が見えたんだ。
あ、マダム(やさしいほう)が迎えにきてくれた!

喜んだフツーノに近づいてきたのは


「あんたあたしの傘を無断で使ったね。」

・・・・マダム(こわいほう)だった。


「・・・珈琲を飲みにきたのかい? ばかだね、雨の中わざわざ。

それとも、かわり種の森に住みたいのかい?
ま、それはそれでいいかもしれないね。
ここにはなかなかおもしろい住人たちがいるよ。

ただ、あのひとが用意してくれるおいしいゴハンだとか、気持ちのいい寝床だとか
ここにはないかもしれないね。
たまに誰かにくっついて眠りたいなと思っても、誰もいない、いても怒られるってこともあるだろうしね。

・・・ここに来るのは、もう少し先でもいいんじゃないか?」


マダム(こわいほう)は、いつもよりちょっとやさしい口調でそう言うと
フツーノをそっとなでたんだ。

フツーノはもちろんそんなつもりはなかったからびっくりしちゃって椅子から飛び降りた。

「さ、帰るよ。」
マダム(こわいほう)は少し微笑んでいるように見えたんだ。

「それにだね、「普通」っていうのはね、悪いことじゃないんだよ。」

ん?なんていったの?意味わかんないな!もっとちゃんと聞かせてよ
フツーノは知りたかったんだけど、
マダムはずんずん速足で歩いていくもんだから、
ちゃんと聞くことはできなかったね。



家に帰ると、マダム(やさしいほう)がタオルでごしごし拭いてくれた。
ごはんも山盛り用意してくれていた。

きもちのいいソファーでゴロゴロのどを鳴らしていると
マダム(こわいほう)が、ざっくり言った

「言い忘れたけどね、
喫茶ウカウカではこどもに珈琲は飲ませちゃくれないよ。

・・・ま、おとなになることだね。
それも遠い話じゃないさ。」




普通の猫のちょっとだけ普通じゃない日のお話でした。

◆6月のお話◆

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