女の子にはそれはそれは大切なともだちがいました。

5月には特別な日がありました。
女の子はずいぶん前から「とびっきりのプレゼントを贈ろう!」とはりきっていたんですね。

とびっきりのプレゼントを贈りたい・・・・誰もが思うことですが、実際はとても難しいものです。
(女の子にはセンスも財力も無いし・・・料理の腕前にも自信ありませんしね。)


それでも気持ちだけはたっぷりあったので、
ひたすら考え続けると・・・・はっ!思いつきました!いいことを!

見たことがないぐらいたくさんの風船でかわり種の森を飾って、
ともだちをお茶に招待しよう!


そうと決まれば行動あるのみ。明るい色の風船をたくさん買い集めて、
そこそこ町のお店やさんでガスをいれさせてもらい
ふんわり舞い上がる風船に仕上げました。

こんなにたくさんの風船を手にしたのは、女の子もはじめてでした。
大きな花束のような鮮やかな風船を両手に持って、それはそれは気分良く道を歩いていると・・・
こどもたちが集まってきました。

「うわあ!おねえちゃん、きれいだねえ。ふうせん、とってもきれいだねえ!」

・・・期待にきらきら輝くこどもたちの目を見たら・・・・
これはもう完敗です。

(まあ・・・・これぐらいの人数ならね・・・風船たくさんあるしね)・・・
女の子は風船をこどもたちに手渡しました。
こどもたちは大喜びで、町のあちこちへちらばっていきました。

やれやれこれで・・・と、女の子は少し急ぎ足になって歩きはじめました。
すると今度は赤ちゃんを抱いたお母さんたちの集団にでくわしました。

女の子がそーっとうつむいてすれ違おうとすると・・・

「ほら見てごらんー。きれいですねえー。ふんわり浮かぶ風船見るのは初めてですねえ。
あらあら、夢中で見ているわ。・・・不思議なのかしら。
・・・もっと見ていたいわねえ。」

・・・これにも・・・あきらかに負けです。
女の子は、赤ちゃんのお母さんたちにも風船を渡しました。

(まずい・・・風船が無くなる前に早く帰らなくちゃ・・・・)と、
さらに急ぎ足で女の子は進みます。

公園の前をとおりかかると・・・そこにはおじいちゃんおばあちゃんたちが・・・
みんなで何かスポーツを楽しんでおりました。
(おじいちゃんおばあちゃんなら大丈夫!)
女の子はほっとして堂々と前を歩くと・・・

「んまあー綺麗!!みてみてみなさんー、風船よー、なんて綺麗なんでしょう。
こどもの頃を思い出すわねえ・・・お祭り、メリーゴーランド、色とりどりの風船。
ああ、懐かしいわ。夢みたいね。」

・・・これにはもうノックアウトです。

・・・・・・・・。
女の子の手には風船はひとつも残りませんでした。

森へ帰った女の子。ケーキも焼きあがりました。
味には自信がないので・・・・ともだちが好きな花でケーキを飾り
テーブルにのせました。うん、今日も見た目はばっちり!

しかし・・・・プレゼントは無いのです・・・
(たかがプレゼントとお笑いにならぬように。
プレゼント・・・それは世の女の子たちにとって、とても大切なものなんですよ。)


ともだちを待つ女の子の目には涙。

約束の時間に現れたともだちは・・・・・とびきりの笑顔。
女の子の顔を見るなり、はずんで話はじめました。


「今朝ね、なぜか悲しい気持ちで目が覚めてしまって
しばらくぼんやりしてしまったの。だけど、カーテンを開けたら・・・
びっくりしちゃった!だって青い空に風船がたっくさんなの!

お祭りかなにかかしら・・・?でも音楽も聞こえて来ないし・・
外に出て歩いてみたら・・・曲がり角をまがっても、お店に入っても、必ず風船が目に入ってくるの。
でも、どこにも風船売りはいないのよ。不思議よね。

風船を持っている人はみんなとてもにこにこしていて、とっても幸せそうで!

私の悲しい気持ちなんてすぐに飛んじゃった。
ぐんぐんぐんぐん幸せな気持ちになっていったの。


笑わないでね、
なんだかね、みんなが私をお祝いしてくれているように思えちゃったの。
みんなのやさしい笑顔のまんなかに自分がいるようで。

今日、お茶会に招いてもらっていなかったら、悲しいきもちのままで、
町にもでなかったと思うの。
ありがとう!ほんとにすてきな日だわ。

あら?わあ!すてき!このケーキ!なんて綺麗なのかしら!
こんなケーキ見るのはじめてだわ。
私、この花、大好きなの。」



いつもは囁くように恥ずかしそうにおしゃべりをするともだちが
元気いっぱい、大きな声で一気にしゃべったものだから
女の子はびっくり。!


あたたかい紅茶をいれて、ケーキを切り分けて
女の子はせいいっぱいおもてなしをしました。
なんと!ケーキがそれはそれは美味しく出来ていたんです。
ともだちはたいそう喜んでくれて、おかわりもしてくれました!


・・・・・・女の子はふと思いました。
そういえば・・・昨日までこの花咲いていなかったわ。
あ、あの花も、あの木の花だって・・・
まるで今日に合わせて咲いたみたい。

(ケーキだって、こんなに美味しくできたのはまるで奇跡だしねえ)


私だけじゃなくて町の人たちだけでもなくて・・・
もっともっともっと遠くの、広いところのひとたちも一緒に
みんなでお祝いすることができたのかな。


とびきりうれしそうなともだちの顔を見られて
女の子は幸せでした。

ありがとう。たくさんたくさんありがとう。
こころの中で、誰にともなく言いました。



5月のある特別な日のお話。

◆5月のお話◆
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