◆7月のお話◆

シュツ タン タターン
ホイッ ターン タ トンッ

かわり種の森の住人たちは まだ誰も気付いていないのだけれども
毎週土曜日の夜に現れる 軽業師の夫婦がいるのです。

彼らは名高い「とある大サーカス」の花形スターでした。
あ・・・・彼らは・・・ではなく、彼女は。

彼女の名前そのものの美しい姿と軽やかな技は
どの街でもどの国でも拍手喝采熱烈ファンはもうたいへん。
花形スターのラナンキュラス。
そんな彼女が恋をしたのはなんともさえないでぶっちょさん。

団長は猛反対。スターの座をとるか、その恋をとるか、ものすごい剣幕で彼女に問い詰めたのね。
(ま、彼も恋してたんだね。団長もけっこういいやつなんだけどさ、恋というのはね、人を不条理な生き物にかえるからね。しかたないよね。)

彼女は何の迷いもなく
小さな花の絵のついたペーパートランクに(昔おかあさんに買ってもらったものなんですって)
小さな香水の瓶とレースのハンカチ、家族の写真と自分で作った衣装を一枚だけいれて
でぶっちょさんと手に手をとってかけおちしたのでした。

(え?よくある話だなあって?
そうよそうなのよ、現実っていうのはね、それぞれ誰かのよくある話で満ちているのよ。)

花形スターのラナンキュラスが惚れこんだでぶっちょさん。
とびきりやさしい心を持ってるだけではなく・・・
実はそれにも増して大変な実力の持ち主で
この体系からは考えられないほどのすばやい動きでとびまわります。

今夜も蜘蛛の糸で雨露のビーズをつなぎ
あっという間に森にはりめぐらせ ふたりの演技のはじまりです。
夜明けを知らせる白い鳥がやってくるまで。

かわり種の森には満月の夜にだけ現れる湖があります。
土曜日の夜が満月にあたる日
彼らは衣装を身にまとい、誰も見ていなくても誰かのために
ショーをはじめるのです。

湖からの光は彼らを
「とある大サーカス」のきらびやかなライトにも負けずに美しく彩り
しんと静まりかえった空気からは
美しい音楽が聞こえてくるようです。

彼らは最高の軽業師なのです。


え?なんで土曜日の夜じゃないとだめなの?ですって?
月曜日から土曜日夕方まで彼らは
やけにコンビニエントな商店や
なんともファーストな食堂で
アルバイト活動に追われているからなんですね。
(え?なぜって?
それはさ、わかるでしょう、そうよそれが暮らしっていうものなのよ。)

今夜は満月。
ふたりを初めに知ったのは
ちいさなドラゴンのフランチェスカでした。





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